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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)313号 判決 1963年2月26日

原告 矢尾板和夫

被告 巣鴨信用金庫

主文

被告は原告に対し金三、二一〇円及びこれに対する昭和三六年一月二五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、原告の申立及び主張

(請求の趣旨)

1  被告は原告に対し金一〇三、四八〇円及びこれに対する昭和三六年一月二五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

(請求の原因)

一、訴外岩崎久義は被告に対し左記の定期預金契約に基く金一二一、四七〇円の債権を有していた。

定期積金 昭和三三年九月から毎月金二〇、二〇〇円払込二ケ年二四回掛

金額五〇〇、〇〇〇円(但し実存額一二一、四七〇円)

二、原告は昭和三四年八月二七日岩崎に対する東京地方裁判所昭和三四年(ワ)第二、六一二号小切手金請求事件の執行力ある判決正本に基き同裁判所同年(ル)第一、六九一号をもつて前項の月掛定期預金債権(実存額一二一、四七〇円以下本件債権と呼ぶ。)につき債権差押転付命令を得、同命令は同月三一日第三債務者たる被告に送達された。

三、なお原告はこれに先立ち同年三月一七日前同裁判所(ヨ)第一二六四号をもつて本件債権につき仮差押命令を得ており、同命令は翌一八日第三債務者たる被告に送達されている。

四、よつて原告は転付により取得した本件債権のうち既に支払を受けた金一七、九九〇円を除く残額一〇三、四八〇円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和三六年一月二五日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(抗弁事実の認否)

一、(一)の「手形割引、貸付ならびに定期積金に関する取引契約」とその担保の特約存在は不知。

(二)の約束手形の買戻請求の点は否認する。

(三)の相殺の意思表示の点は否認する。仮に相殺したとすればそれは原告の転付命令が送達された後になされたものとしか考えられない。けだし五月七日に買戻の請求をしたといいながら八月二〇日まで差引計算もせず放置していたとみるべき合理的な理由はないからである。

(四)及び(五)の見解は争う。仮に五月七日に買戻を請求したとしても被告はこれによつて始めて手形再売買の代金債権を取得したにすぎず、民法第五一一条に照せば、仮差押債権者たる原告にその相殺を対抗できないことは明らかである。

のみならず被告は買戻請求と同時に手形上の権利を喪失するから損害金債権を取得する理由もない。

二、譲渡禁止の特約の存在は不知、原告が悪意であるとの点は否認する。

三、和解契約の成立は否認する。

第二、被告の申立及び主張

(請求の趣旨に対する答弁)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

(請求原因事実の認否)

認める。但し定期積金は六ケ月分合計一二一、二〇〇円が存在していたのみである。

(抗弁)

一、(一) 被告は昭和三三年九月九日岩崎久義との間で「手形割引貸付ならびに定期積金に関する取引契約」を締結し次のような担保の特約を結んだ。

(イ) 岩崎が被告に対し約束手形、為替手形の振出人、裏書人、引受人として、負担すべき債務及び当座貸越契約に基き生ずべき債務その他被告との間の取引により生ずる債務一切について岩崎は被告との間の定期積金契約に基く定期預金債権(本件債権)を担保として差入れること。

(ロ) 岩崎の右取引契約上の債務のいずれかゞ履行遅滞となつた場合には被告は何等の通知を要せず且つ期限の如何を問わず岩崎との間の定期積金、預金その他一切の債権をもつて当然に差引計算(相殺)できること。

(ハ) 岩崎の依頼により割引いた約束手形の振出人又は為替手形の支払人が支払停止となつた場合には被告の請求があり次第岩崎において同手形を買戻すこと、もし買戻をしないときは被告は何等の通知を要せず且つ手形の満期の如何を問わず直ちに担保に供されている定期積金債権と対等額で相殺できること。

(二) それゆえ被告は昭和三四年二月二日岩崎の依頼により本件債権を担保に左記の約束手形を割引いて取得し、その所持人として満期に支払場所に呈示したところ契約不履行との理由により支払を拒絶されたので、同年五月七日岩崎に対し同手形の買戻を請求した。

約束手形 金額一〇〇、〇〇〇円

満期昭和三四年五月五日

支払地東京都北区

支払場所滝野川信用金庫田端支店

振出地東京都荒川区

振出日白地

振出人寺田彰良

受取人岩崎久義

(三) しかし岩崎は買戻に応じなかつたので、被告は同年八月二〇日右買戻代金債権一〇〇、〇〇〇円及びこれに附随する満期後同日までの日歩三銭の割合による遅延損害金債権三、二一〇円をもつて本件債権と対等額で差引計算し(相殺)、なお同日、岩崎にその旨の意思表示をした。

(四) 被告が右に主張した買戻請求権は、手形が不渡になつたときその他割引依頼人に不信用な事実が発生したことを条件として手形の再売買の効果を生ずる停止条件附再売買契約に基くものと解するのが相当であり、したがつて原告の仮差押に先立ち手形の割引をした時に既に条件附権利として存在していたものであるから、民法第五一一条の規定に拘らず被告の相殺は有効であると考える。

(五) 仮に右の法律構成が認められないとしても、本件のような預金者と金融機関との間の信用取引において預金債権は絶大な担保的機能を有するものとして当事者から期待されているところのものであり、なかんずく預金債権より前に金融機関の預金者に対する債権の履行期が到来するように配慮され、金融機関の相殺適状をまつての債権回収にかけた期待的利益は保護さるべきであるから本件相殺の約定は原告との関係でも効力を認むべきものである。

二、本件債権には、当初から被告と岩崎との間で譲渡禁止の特約がなされており、また、昭和三五年九月の満期まで払戻をしない旨の特約も存在しているところ、原告はこれら特約の存在を知悉して本件債権を取得した悪意の第三者であるから被告は右の特約をもつて対抗する。(とくに原告は岩崎が金融機関たる被告と当座取引をしていたことを知つていたのは明らかであり斯る事情の下では右特約の存在につき悪意のあることが推認される。)

三、以上の抗弁が理由ないとしても、原被告間には次のような和解契約が成立しているから原告の請求は失当である。すなわち、原告代理人菊地政(弁護士)は昭和三四年一〇月七日本件債権の取立のため被告を来訪したが、被告の職員から前述のように相殺した結果、残額として原告に支払うべき債権額は一万余円にすぎないことを説明したところ同代理人もこれを了承し右残額の支払を得てその余の請求は放棄することに意見の一致を見、原告が請求原因四で自認するようにその支払を受けたものである。

第四、証拠関係<省略>

理由

(請求原因事実)

原告が請求の原因として主張する事実は定期積金(預金)の実存額を除き当事者間に争いがなく、証人児山光男の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第七号証によれば右実存額は六ケ月分合計一二一、二〇〇円であること(すなわち一ケ月の積立額は二〇、二〇〇円であること)が認められ、これを覆すに足る証拠はない。

そこで進んで被告の抗弁につき判断する。

(担保契約、手形買戻請求)

一、被告が岩崎から抗弁一(一)主張のような約束手形を割引きにより取得したので満期に適法に支払の呈示をしたにもかかわらず不渡となつた事実は原告の明に争わないところであるから自白したものと看做す。

二、児山光男の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第五ないし第七号証ならびに弁論の全趣旨を総合すると抗弁一の一、(二)の各事実(但し擬制自白の点を除く)及び同(三)のうち被告金庫の帳簿上では岩崎との間の本訴請求債権に係る取引関係は昭和三四年八月二〇日を基準として清算されているように記載されている事実をそれぞれ認めうることができ、これに反する証拠はない。

(いわゆる買戻請求に基く代金債権の発生)

被告は本件手形割引に関する約定書(乙第五号証)に定めるいわゆる手形の買戻条項をもつて、不渡等を停止条件とする手形の再売買契約であるかの如く主張するけれども前顕乙第五号証(とくに第九条)に明らかであり被告も自認するように、いわゆる買戻義務は被告の買戻請求によつて発生するものと定められているから、他に特段の事情がないかぎり右条項は再売買一方の予約を定めた趣旨に解するのが妥当であつて、これを覆し被告の見解を首肯せしめる的確な証拠はない。

そして証人児山光男の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第一号証を総合すると本件手形は満期の翌日である昭和三四年五月六日支払のため呈示されたところ支払を拒絶されたので被告は翌七日岩崎に対し同手形の買戻を求めた事実が認められるから、これにより被告は本件手形の買戻代金請求権を取得したものであることは明らかであり、この認定を左右する証拠はない。

(相殺の予約の存在)

前顕乙第五号証記載の第九条、第二条によれば前項の買戻の請求があつたにもかかわらず岩崎が買戻義務を履行しない場合には被告は期限の如何を問わず且つ何等の通知を要しないで岩崎の被告に対する預金債権等と差引計算しても異議ないことを岩崎において予め承諾していることが認められるから、後記説示のとおり通知を不要とする特約の効力を認むべきかどうかは別として被告主張のいわゆる「差引計算」条項は相殺の予約を定めたものと解すべきものでありこれに反する証拠はない。

(民法第五一一条の適用の有無)

原告の本件債権に対する仮差押の効力の発生が第三債務者たる被告の岩崎に対する手形買戻請求より時間的に早いことは既に判断したところから明らかであり、この事実を基として原告は被告の主張する相殺は原告に対抗できないと主張するけれども民法第五一一条は支払の差止(本件では仮差押)を受けた後に取得した反対債権による相殺は差押債権者に対抗できないものと規定したにすぎず、被差押債権に差押の時までに附着している抗弁権等を失わせる趣旨でないことは言うまでもない。

ところで本訴請求債権は既に認定したように被告と岩崎との間の手形割引等に関する契約の趣旨に従い担保として被告に差し入れられているものであり、この担保権実行の一方法として前示認定の如き相殺の予約が締結されたものであることそして被告はこの担保を信頼し仮差押前の昭和三四年二月二日に前示の約束手形の割引に応じたものであることは自ら明らかなところである。そうすると差押前に第三債務者が斯る形で取得している正当な利益(期待的利益)は差押債権者との関係でも保護を受けるのが結果において妥当であり、衡平の見地からみても自働債権の弁済期が受働債権よりも早く到来するように配慮し相殺予約の形式で担保権を確保しようと努力している第三債務者の期待的利益は単に仮差押をしたに過ぎない者の利益よりも厚く保護されて然るべきである。元来民法第五一一条は差押後に第三者から反対債権を譲り受けて相殺するような事態に対処した規定であつていわば差押の効果を烏有に帰せしめることのないよう必要にして充分な範囲に限つて適用されるものと解すべく、本件のような場合に破産法第一〇四条三号但書で「債務者カ支払ノ停止若ハ破産ノ申立アリタルコトヲ知リタル時ヨリ前ニ生シタル原因ニ基クトキ」にはなお相殺を許容していることと異別に扱うべき合理的な理由は見出し得ない。(取引の安全といつてみたところで民法第四六八条二項の存するかぎり差押前に相殺予約に基き手形割引に応じている以上はその相殺権をもつて被差押債権に附着した一種の抗弁権としてこれを対抗せられることも已むを得ないものというべきである。)

それゆえ差押債権者たる原告との関係でも被告は本件手形の買戻請求により取得した代金債権をもつて相殺の用に供し得るものと解するのが相当でありこの点に関する原告の見解は採用できない。なお右に述べた意味での相殺の予約は具体的に手形割引をなす都度いわば受働債権に附着するものであつて、受働債権の差押後になされた手形割引についてはたとえ手形割引約定書に基いて包括的な相殺予約がなされていたとしてもこれを対抗できるものでないことは勿論である。

(予約に基く相殺と手形呈示交付の要否)

手形の売買といえども通常の売買と異るところはないから買取(買戻)代金の支払と手形の交付(返還)とは同時履行の関係に立つていることは疑を容れないけれども、本件再売買の予約の場合には前示「差引計算」の項で認定したように被告と岩崎との間で何等の通知を要しないで差引計算できる旨の合意がなされている事実からみれば、岩崎は予め右同時履行の抗弁権を放棄していたものと認めるのが相当でありこれに反する証拠はない。そしてこのような抗弁権放棄の合意の効力を否定すべき格別の理由もないから本件の被告は手形の交付を要せずに相殺の予約を完結できるものであることは明らかである。

(相殺の意思表示の有無)

被告は岩崎に対する相殺の意思表示を昭和三四年八月二〇日なしたと主張し、被告の関係帳簿と認められる前顕乙第七号証では同日を基準として岩崎の定期預金債権と差引計算していることが認められるけれども証人児山光男の証言をもつてしても右日時に岩崎に対し現実に相殺の意思表示をなしたものか被告の帳簿上の清算を行つたにすぎないのか曖昧であり、むしろ同証言全体から判断すれば同年五月七日に岩崎に手形の買戻方を請求したところ三ケ月の間になんとか解決するとのことであり、振出人の方でも不渡処分を免れるため手形額面に相当する提供金を積んでいることでもあるので当事者間の円満解決に委ねるのが妥当と判断し放置していたところ三ケ月を経過しても岩崎の方から何の応答もないので急拠乙第七号証記載のような帳簿上の整理を行つたにすぎないのではないかとの疑が濃く、少くも同証言によつて被告の主張日時に岩崎に対し現実に相殺(予約完結)の意思表示がなされたこと及びそれが岩崎に到達したことを認定するには不十分であり乙第七号証その他の証拠も、この点の疑問を氷解せしめるものではなく、他に被告の主張事実を肯定させる的確な証拠はない。

しかしながら前示転付命令送達後である昭和三四年一〇月七日被告の職員は原告代理人菊地政に対し本訴債権の相殺関係を説明し相殺(差引計算)残額として本件定期預金のうち金一七、九九〇円を交付した事実があることは成立に争いない乙第二、三号証、証人児山光男の証言及び弁論の全趣旨に照らし明らかであり、これに反する証拠はない。

而して右の事実に証人児山光男の証言を合わせ考えるとその際被告から原告に対して前示相殺の予約に基き相殺(差引計算)する旨の意思表示がなされたものと認めるのが相当でありこれに反する証拠はない。そして斯る相殺権の行使は受働債権の転付前においては岩崎に対しなすべきものであるが転付後は転付債権者に対しなすべきものであることは言うまでもないところであるから右意思表示により有効に相殺が行われたものと解して妨げない。(本訴において相殺権を行使したと解しても結論において差異はない)

もつとも相手方に対する相殺の意思表示を不要とする旨の特約が存したことは既に認定したところから明白であるが斯る特約を無条件に有効と解することは取引関係の安定、明確化の要請から忍び難いところであり少くも意思表示に代る程度に相殺権を行使したことが外部にも客観的に明白になるような方法が取り決められていないかぎり無効なものと解せざるを得ない。(もし特約の趣旨が一定の事実の発生により当然相殺の効果を生ずるというのであればそれはむしろ停止条件付相殺契約と解すべきものであるがその条件がいわゆる純粋随意条件と認められるかぎり結局斯る特約は無効と解せざるを得ない。)それ故被告の右特約の主張は採用しない。

(相殺の効果)

一、被告は相殺の自働債権として本件手形買戻請求権のほか同手形の満期の翌日からいわゆる差引計算をなしたという昭和三四年八月二〇日まで日歩三銭の割合による約定遅延損害金債権(合計三、二一〇円)を有する旨主張するけれども前顕乙第五号証(約定書)によれば遅延損害金の約定としては同書面中第八条として岩崎の被告に対する債務が不履行となつた場合は被告の指定する利率により遅延損害金を支払うとの趣旨の合意があることを認め得るのみで前顕乙第六号証(担保差入証)その他本件全証拠によつても一定の損害金率を取り決めていた形跡は窺われない。

二、そうすると右第八条に基いて被告が損害金率を指定できる権利は一種の形成権(ただし利息制限法により法律上その限界が劃されていることになる。したがつて右約定を直ちに無効とすべき理由はない。)と解せられるが、被告の立証その他本件各証拠に照らしても被告から岩崎に対し損害金率を指定する意思表示がなされた事実を認めることはできない。もつとも前示のとおり乙第七号証(被告の帳簿)には損害金三、二一〇円をも自働債権として差引計算を行つていることが認められるけれども、被告が岩崎に対し損害金率を日歩三銭とする旨の意思表示をしたこと及びそれが到達したことを窺うに足る証拠はなく、かえつて証人児山光男の証言全体から判断すれば岩崎に手形の買戻を求めたところ三ケ月猶予して欲しいとのことであつたがその三ケ月を経過しても岩崎から確たる解決方法が得られなかつたので被告の職員が一方的に帳簿上の清算を行つたものではないかとの疑が濃く、結局有効な損害金率の指定(形成権の行使)があつたものと認めることはできない。

三、のみならず本件の如く自働債権の発生に先立ち予めなされた相殺予約を完結する場合の相殺の効果は民法第五〇六条第二項を類推し特段の留保がないかぎり手形買戻請求権を行使した時に遡つて生ずるものと解するのが相当であり、乙第六号証その他の証拠によつても斯る特段の留保がなされた事実は認められない。

四、したがつて本件相殺予約の完結の効果は買戻の請求があつた昭和三四年五月七日に遡つて生ずるものと解すべく、(同日以前手形満期日までの間は岩崎に遅延の責任はない)被告の相殺の主張のうち約定遅延損害金債権に関する部分は失当であり、結局本訴請求債権のうち相殺によつて消滅した部分は手形買戻代金額に相当する金一〇〇〇、〇〇〇円と認められる。

(その他の判断)

一、被告は本訴請求に係る定期預金債権は岩崎との間で譲渡禁止の特約を結んでいたところ原告はこの点につき悪意があつて転付を受けたから本訴債権を取得し得ないと主張するところ前顕乙第六号証によれば斯る特約の存在を認め得るけれども、その立証その他本件全証拠によつても原告の悪意を認めることはできない。のみならず財貨そのものとも言うべき金銭債権については斯る当事者間の特約をもつてしては転付債権者の善意悪意を問わず対抗できないものと解するのが相当である。

二、また被告は原告との間で本訴債権につき和解契約が成立したかの如く主張するけれどもその全立証をもつてしてもそのいう趣旨の和解が成立したことを認めることはできない。

(結論)

以上それぞれ判断したところから明らかなように本訴請求債権の実存額は一二一、二〇〇円であるところ被告が相殺を対抗できる金額は一〇〇、〇〇〇円であり、約定遅延損害金という三、二一〇円については相殺の抗弁は失当であるから、結局被告の支払義務は支払済の部分を除けば金三、二一〇円及びこれに対する訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和三六年一月二五日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の限度で存在するものと認められ、その余の請求は失当である。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条但書を適用し(被告の敗訴部分は僅少であるから)原告勝訴部分についての仮執行宣言は必要性を認め難いのでこれを附さないこととし主文のとおり判決する。

(裁判官 石田哲一 滝田薫 山本和敏)

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